事業承継対策における遺言の重要性① | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2020/11/6

事業承継対策における遺言の重要性①

経営者は遺言をどのように感じているか

経営者は、事業承継対策のご検討に際して、遺言を書いた方が良さそうだと感じながら、実際に遺言を書くことに直面すると、ご自身の死をイメージされ、「自殺をする前に遺書を書く」ような気持ちになって、気持ちが暗くなり、億劫になっている場合もあります。
このコラムをお読みいただいている経営者のみなさまも、思い当たるところがおありではないでしょうか。

遺言がないと社長の想いが実現できない

事業承継で最も重要なことは、後継者を決めることです。
まだ最終決定でないとしても、後継者を誰にするかということは、社長の胸の内では思い描いていらっしゃると思います。
後継者候補が社長の長男おひとりで、他に後継者候補がいないのであれば、あまり問題はありません。
しかし、社長のご子息が兄弟2人のようなケースでは、社長に万が一のことがあると、兄弟2人で、どちらが社長になるのかを決めなければなりません。
兄弟の仲が良い悪い、各々の能力差や経験差があるなど状況は様々で、兄弟2人で話し合ってどちらが社長になるのかを決めるのは簡単ではありません。

家長制度の名残りからか、長男が社長になるのが当然という地域もありますし、世間体を気にすることや、兄弟の折り合いをつけるために、次男が長男を立てて、長男が社長になるということはよくあります。
仮に現時点で、社長としては、弟の方が社長に適していると考えていても、遺言を書いて準備しておかなければ、それを実現することはできません。
社長としての適性が劣る方が社長になるということは、会社の将来にとってマイナスであることは言うまでもありません。

遺言を事業計画書と考える

さて、遺言を書かない場合の問題点をご理解いただいたとしても、冒頭に書きましたように、遺言を自殺する時の遺書のように考えると、お気持ちが暗くなってしまうこともあるかと思います。

ここで、生命保険の契約のことをお考えいただきたいのですが、生命保険は将来亡くなった時に遺族が困らないように、準備をするものです。
これは、遺族への思いやりであり、生命保険に加入する際に、死をイメージしてお気持ちが暗くなるということは、あまりないのではないでしょうか。
遺言も同様のものと、とらえていただきたいのです。

相続はいつ発生するのかわからないため、後継者が決まっていなくても、相続発生によって、誰かが後継者になる必要があります。
遺言は、現時点のお考えを、後継者たちに伝えるために書くものです。
言い換えれば、経営者にとっての遺言は事業計画書なのです。

遺言に書く内容

事業計画書としての遺言という意味でご説明をします。尚、個人の財産の記載については、次回のコラムでご説明します。
遺言に書いていただきたい内容は、下記の4つです。

① 後継者を誰にするのか
②自社株を渡す相手と割合
③なぜそのような選択をしたのか
④会社への想いです。

① 後継者を誰にするのか

事業承継で最も重要な事項は、後継者を誰にするのかということです。
最も重要な事項であるため、ご決断は難しいと思いますが、現時点の社長のご判断でお書きください。
迷われるかもしれませんが、もしも遺言作成後にお気持ちが変わったら、書き直せばよいのです。
社長が後継者を誰にしたかったのかというお気持ちが遺言に書かれていることで、ご子息が揉めることなく社長に就任することが可能になるかもしれません。

② 自社株を渡す相手と割合

社長が所有されている自社株を相続発生時に、誰に何株、または何パーセントを渡すのかということを決めるということです。
兄弟が各々自社株の2分の1を所有することは、会社の経営にとって最悪の選択です。
株主が兄弟2名しかいなければ、株主総会の普通決議すら可決することができず、会社の重要事項は決定できないということになります。
後継者は、最低でも普通決議を可決できる2分の1、できれば特別決議を可決できる3分の2を所有することが望ましいといえます。
兄弟の話し合いでは、そのように偏ったシェアで相続をすることを実現できなかったとしても、社長が後継者に多くの自社株を相続させる旨、遺言に書いて伝えることで、後継者はスムーズな経営が実現できます。
これは、後継者個人が有利になるということではなく、会社の事業全体がスムーズになるということです。

③ なぜそのような選択をしたのか

後継者を選んだ理由や各人の自社株のシェアを決めた理由について、ご説明ください。
後継者に対しては、どのようなことを期待して社長のイスをバトンタッチしたのかということを伝えてください。
また、後継者に選ばれなかった子供は、落胆するかもしれません。長男であれば、プライドが傷つくことが予想されます。
遺言には、兄弟各々の性格、特徴、スキルなど優れた面を評価した上で、社長の適性がある方を選択したということを明確にすれば、納得感が生まれることもあるでしょう。
もちろん、それで全てが解決するものではないかも知れませんが、後継者を選択した理由なしに、後継者が誰かを伝えられるよりは、はるかに良いことだと思います。

④ 会社に対する想い

社長は、人生をかけて大きくしてきた会社に対して色々な想いがおありだと思いますが、会社が今後も存続・発展して欲しいということと、会社が従業員の生活を守れる存在であって欲しいと願うお気持ちは、とても大きいものだと思います。
特に創業社長は、カリスマ的な存在であることが多いため、次世代は同じような存在になることは難しく、後継者と経営陣、従業員が一致団結しなくては、経営はうまくいきません。
特に、兄弟や親族経営の場合には、他人同士よりも各々のエゴが表面に出て、経営に悪影響を及ぼす可能性がありますので、そうならないように、全員が協力して会社を発展させて欲しいということを書いてください。

最後に

後継者は、役員の経験があったとしても社長の業務は初心者です。
社長が亡くなった後も、その初心者が、うまくやっていけるように愛情を込めて、遺言を作成していただければと思います。

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