事業承継対策を検討する場合、経営と自社株についてイメージされると思いますが、後継者がスムーズに経営をするためには、社内外の関係者に理解を得ることがとても重要です。
信用や信頼関係は承継されない
未上場企業の場合、社長の顔(信用)で取引が成り立っていることが多いものです。
関係者から「あの社長は信用できる」と思われていた、その社長が事業承継のタイミングで退任し、関係者から見れば、あまりよく知らない後継者が社長に就任にするわけですから、関係者との信頼関係の根幹が揺らぐことになり、不安を抱かれることは当然と言えます。
特に、準備がないまま社長が亡くなられて、突然、後継者にバトンタッチする場合などは、関係者が大混乱してしまい、後継者としては、大変な船出になってしまうのです。
つまり、長年、社長が関係者との間で築いてきた信頼関係は、自動的に承継されるものではないということです。
対象となる関係者
理解を得る必要がある関係者とは、親族、役員・従業員、取引先、銀行です。
■親族(後継者の兄弟への対応)
例えば、会社に社長の長男、次男が勤務していて、長男が後継者になる場合、次男には長男を盛り立て、お互いに協力して会社を経営していくように理解させる必要があります。
兄弟経営は、お互いの関係が近い分だけ、相手に対する遠慮が無くなり、また配慮が欠けることがあり、他人同士の経営よりも難しい場合があります。
社長は、兄弟相互の協力がなければ、会社の繁栄は望めないことを、じっくりと説明しなくてはなりません。
また、このケースで次男が後継者になる場合には、長男がプライドを保てるように、職位や待遇で配慮をすることなど、納得感を得られるようにすることが必要です。
■親族(後継者のいとこへの対応)
現社長が兄弟で経営している場合、各々の子供たちが会社に入社していることはよくあることです。
そのケースでは、現社長の子供が後継者になることは、従来では既定路線でしたが、最近では、次世代で優秀な人材が後継者になるという会社も増えてきており、必ずしも直系血族での承継ではなくなっています。
後継者とその兄弟、いとこ同士で経営する場合、年齢での上下関係なども複雑に絡み合い、後継者がリーダーシップを発揮しにくいものです。
従って、兄弟、いとこ同士の協力が会社経営には不可欠であることを現社長が時間をかけて、説明する必要があります。
■役員・従業員
会社は、後継者ひとりでは経営できません。役員、従業員の働きによって、経営は成り立っています。
特に、後継者の社長就任当初は、経験のある役員に頼ることが多いものです。
同族企業の役員・従業員は、現社長の親族が後継者になることは、頭では十分に理解しているものの、気持ちはまた別問題です。
現社長への信頼が厚い分だけ、「先代の時は良かった」とか「社長が辞めるなら自分も辞める」と言う役員・従業員はいるものです。
そのようにならないために、後継者候補者は、早くから役員・従業員とともに業務に取り組み、役員・従業員との信頼関係を構築することが必要です。
■取引先企業
後継者にバトンタッチが行われると、取引先企業の場合は、まず、代金はきちんと支払われるのか、商品が納期に間に合うかなどについて、不安を抱くことになります。
特に、社長死亡により、後継者が突然に社長就任をする場合には、取引の縮小や代金の支払(回収)条件が悪化する場合があります。
企業は新規取引を行う場合に、相手の信用調査を行います。現社長の経営については、この信用調査をクリアしている状態であり、信頼関係は構築されていますが、後継者については未知数ということになりますので、まずは品定めをされるということは当然と言っていいでしょう。
■銀行
後継者の経営でも、融資が滞りなく返済されるかどうかというのが、銀行にとっての最大の関心事です。
ワンマン経営の社長の場合、銀行取引は社長単独で行っていることも多く、後継者が金融機関に認知されていない場合には、その後の新規融資が消極的になったり、または返済期間、借入金利などの条件が悪化することがあります。
後継者がその会社の役員であったとしても、そのような状況になることがありますので、後継者が社長の死亡をきっかけに他社を辞めて社長に就任するという場合には、金融機関からすると、不安はさらに大きいということです。
「銀行は晴れた日に傘を差し出し、雨の日には傘を取り上げる」という言葉で、銀行が冷酷な存在と表現されることがあります。
真偽については、経営者のみなさまが日々色々とお感じのことと思いますが、後継者にバトンタッチした後も、銀行取引をスムーズに行うためには、融資している銀行に対して「顔つなぎ」をしておくことは大切です。
これは、銀行取引に限ったことではなく、相手から信頼されるために必要なことは、事前に準備しておかなければならないということです。
まとめ
事業承継においては、経営や自社株を引き継ぐだけではなく、後継者が社内外関係者との信頼関係を構築していくことが必要です。
信頼関係の構築とは、相手の気持ちを動かすことですから、自社株を渡すことの検討よりも、もっと時間がかかります。
従って、事業承継対策は、早期に計画的に行う必要があるということです。
▶経営者の皆様は、「事業承継がゼロからわかる本(第2版)」をご覧ください。
▶税理士、銀行員の皆様は、さらに「社長に事業承継の話を切り出す本」を読んでいただくと、コラムの内容をどのように社長に説明すればいいのかということをおわかりいただけます。