事業承継をするということは、最終的に後継者に自社株を渡すことになります。しかし、後継者がまだ決まっていないのに、とにかく自社株を早く子供たちに渡しておいた方が良いのでは?と考えている経営者が多いものです。
今回は、そのケースの問題点についてご説明します。
自社株の2つの側面
自社株は個人財産の側面と会社を支配する権利の側面の2つがあります。
①個人財産の側面
社長の配偶者・子供たちが、金融資産や不動産のように、自社株を社長の個人財産として、相続することです。
②会社を支配する権利
自社株には、株主総会の議決権があります。
例えば、自社株の100%を所有している人は、他の役員が反対しても、ひとりで会社の重要事項を決めることができるということです。
事業承継対策と相続対策の混同により、自社株を早く子供たちに渡そうとしてしまう
会社経営にとって、上記②の会社を支配する権利が、とても重要なものであることは、ご理解いただけると思います。
それでは、なぜ、世の中の社長は、経営に重要な権利である自社株を早く子供たちに渡そうとするのでしょうか。
事業承継対策は、相続対策と混同されがちで、①の個人財産の側面に着目して、将来の相続財産を減らすという目的で、贈与をしておいた方がいいと考えるからです。
これは、社長自身がそのように考えたというよりも、税理士、銀行員が、このような提案をしていることや、新聞・雑誌などのメディアによる相続対策の解説によって、社長もなんとなく早く渡した方が良さそうだと考えることが原因だと思います。
例えば、暦年贈与の非課税枠110万円の範囲内で自社株を渡しておけば、将来の相続税を減らすことができる可能性があります。
これは、相続対策の観点では間違いではありません。しかし事業承継対策の観点では、必ずしも正しくありません。
なぜなら、すでにご説明した通り、自社株は会社を支配する権利があり、経営に関与しない人に自社株を渡すことは、スムーズな経営を妨げる可能性があるからです。
会社関係者以外に自社株を渡した場合の問題点
経営者が、相続税のことにフォーカスして、ともかく子供たちに自社株を早く渡そうと考えても、複数の子供がいる場合、誰が継いでくれるのか、また誰も継いでくれないのかわからない状況です。
そんな時に、とりあえず子供には均等に自社株を渡しておこうという経営者が多いものです。
しかし、これは、将来にわたって問題になることがあります。
自社株を受け取った子供が会社に入れば、会社の経営のために議決権を行使することになるので問題はありませんが、入社しない場合には、後継者や経営陣からみれば、スムーズな意思決定を阻害する要因にもなる可能性があります。
そして、自社株を相続した人たちは、次の世代にも「子供たちには均等に」と相続させてしまうと、さらに会社とは関係のない株主が増えてしまい、会社経営者にとっては厄介な存在になることがあるのです。
老舗企業では、昨今、創業者一族に分散した自社株を買い戻す動きも多く見られます。将来そのようなことにならないように、現時点でしっかりと考える必要があります。
自社株を安易に渡さないことで発生する将来のリスクへの対応
自社株を早期に渡さないことで、将来株価が上昇したらどうしようかと考える経営者もいらっしゃると思いますが、現在の日本の経済状況や企業業績をみれば、そもそも将来株価が上がり続けるとは限りません。
事業を継続していれば、利益の増減はありますし、災害などの外部要因もあります。それらの影響で株価が下がったタイミングで渡すことを考えるのが一つの方法ですし、また、いわゆる株価対策を検討するのも一つの方法です。
そしてさらに言えば、株価が高いということは、内部留保が厚く、利益を上げている企業の証です。
業績が良く、株価が高い会社であれば、自社株を渡すことについての対策方法は立てやすいものです。
経営者として考えるべきことは、しっかりと後継者を育成してから自社株を渡すことであり、それが、後継者にバトンタッチした後も、会社が存続・発展することにつながります。
決して、税金を減らすためだけに、安易に自社株を贈与するということは、避けていただきたいものです。