なぜ暦年贈与がなくなると騒がれているのか
最近、「暦年贈与がなくなる」という話題を、メディアが頻繁に取り上げています。
なぜ、騒がれているのかというと、令和3年税制改正大綱に「相続税と贈与税の一体課税制度」が言及され、この制度が令和4年に実施されるのではないかと考える人が多いということです。
相続税と贈与税の一体課税制度とは
<騒ぎのもとになっている、令和3年税制改正大綱のポイント>
- 海外では、贈与を利用した意図的な税負担の回避が防止されるような工夫がなされている
- 日本も海外の制度を参考にして、相続税と贈与税を一体化した課税方法を検討する。
- それにより、資産の移転の時期にかかわらず、税負担が一定になる。
「資産の移転の時期にかかわらず、税負担が一定」の意味
わかりやすくご説明すると、次のようになります。
一般的には「贈与税は税率が高い」というイメージがありますが、暦年贈与の方法を選択すると、贈与する相手1人につき、毎年110万円まで非課税です。
また、親が子供に財産を贈与する場合、1,000万円以下であれば税率は30%ですが、相続税の最高税率は55%であることから、財産の多い人にとっては、相続で財産を渡すよりも、長年にわたって贈与をし続ける方が有利になっています。
これに対し、現在検討されている制度は、贈与した財産も相続した財産も最終的に相続税が課税される方法です。
これによって、暦年贈与の非課税枠110万円の利用や、相続税よりも低い税率での贈与ができなくなり、財産をいつ渡しても税負担は一定であり、公平であるという考え方です。
効果・影響
○暦年贈与での相続対策はできなくなる
財産を贈与で渡しても、相続で渡しても、税額は変わらないということは、暦年贈与を活用した相続対策はできないということになります。
特に、積極的な暦年贈与による相続対策を行っていた富裕層の方たちなどにとっては大きな影響があるでしょう。
○保険料を贈与している生命保険契約
生命保険を活用した相続対策の方法として、被保険者が親で生命保険料を子や孫に毎年暦年贈与の方法で贈与するというスキームを利用されている方がいらっしゃいます。
また、それが有効な相続対策として提案している生命保険会社は少なくないでしょう。税制改正で、暦年贈与がなくなる場合には、この相続対策のメリットがなくなることになります。
もちろん、親が生命保険契約をしていることで、死亡保険金が将来の相続人の財産になり、相続税の納税資金に活用できるという点での効果はありますが、節税のメリットはなくなるということですので、これからこのスキームで生命保険契約をされようとしている方は注意が必要です。
不明点
○新制度の実施時期
・判定時期が、贈与時点、相続時点のいずれになるのか。
○現時点で本当に相続税と贈与税を一体化できるのか。
なぜなら、贈与の内容を、税務当局が相続時まで、完全に補足できるのかということです。
マイナンバー制度が完全に機能して、個人の財産の移動が把握されるシステムができるまでは、なかなか難しいのではないでしょうか。
改正に対する対策
まだ税制改正が行われると決まったわけではありませんが、実施されると仮定すると今、実行すべきことは次のようなものが考えられます。
➀早期に相続税率を下回る税率での贈与を行う
②被相続人が不動産を取得する
(土地の評価は、時価>路線価・固定資産税評価額であるため、金融資産で相続するよりも相続資産を減らすことが可能なことがある)
まとめ
現時点で考えられる対策は多くありません。今後税制改正の動向をフォローして、タイムリーに対策を検討することと、教育資金や結婚子育て資金の贈与など、他に非課税で贈与できる制度の利用検討が必要と考えられます。
【ご留意事項】
本稿は、令和3年11月1日現在の税制を基準として執筆しております。
従いまして、令和4年税制改正大綱の内容は、反映しておりません。また、その後の税制改正の内容により、記事の修正は実施いたしませんので、ご了承ください。