事業承継における遺言の重要性② | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2020/11/13

事業承継における遺言の重要性②

前回のコラムでは、事業承継を実施する時のリスクやトラブルを軽減するための遺言として、法人の側面について書きました。
今回は、個人財産の側面にフォーカスして、遺言作成のご留意点についてご説明します。

社長の財産の特色

社長は、経営者であるとともに、法定相続人の夫や父という顔を持ちます。
そして、財産の内容も同様に、会社の経営に必要な自社株や事業用資産、そして、会社経営とは全く関係のない純粋な個人財産である自宅や預貯金などの金融資産があります。
社長の相続においては、それらの全てを、会社の経営に関与する人、関与しない人に渡すことになりますが、相続財産に事業用財産が存在することで、公平な遺産分割が難しい場合があります。

誰がどの財産を取得するのかを決めるのは簡単ではありません

会社の経営に必要な事業用財産は会社を承継する人に渡して、それ以外は会社を継がない人に渡すというように単純に分けるだけであれば簡単なのですが、そのようにうまくはいかないことが多いものです。

例えば、社長の子供が「後継者である長男」と「会社の経営に関与しない長女」だった場合、長男に自社株や事業用財産を渡し、自宅や預貯金などの金融資産は主に長女に渡すことは多いと思います。

しかし、自社株や事業用財産だけを相続した後継者は、金融資産を全く相続しないと相続税を納税できないかもしれませんし、相続税を納税するだけではなく、長女のように金融資産を相続して、少しは楽しい思いをしたいと考える場合もあるでしょう。

ただ、遺言のない状況で相続が発生した場合、長男が自社株や事業用財産に加えて、金融資産も相続したいと主張しても、長女は相続した財産価値は自分の方がかなり小さいと感じて、簡単に長男の主張を受け入れられないかもしれません。

しかし、そんな時に、父である社長が遺言を残してくれていると、「親の考えに従って遺産分割を行う」という一つの指針ができますので、遺産分割でのトラブルを回避することができるかもしれません。
当事者同士での遺産分割の話し合いは、なかなか結論に到達せずに難しいものですが、遺言が解決してくれることもあるのです。

遺留分侵害の可能性

上記のように相続人が父である社長の遺言に従って、円満に遺産分割を行えれば問題がないのですが、相続人が、相続財産の資産価値という点にこだわると、スムーズな遺産分割ができない場合があります。

一般に、未上場企業の経営者の財産でもっとも大きな割合を占めるのが自社株です。
従って、その資産価値を考えてみますと、自社株を含めた事業用財産の価値は、自宅や預貯金よりもかなり大きくなり、長女が相続する割合は、法定相続分を大きく下回る可能性があります。

長女も自社株自体には興味はないものの、法定相続分という観点でみると、自分の相続割合が小さいので不公平だと感じ、遺産分割案に納得しないこともあります。
これが相続人(兄妹)同士だけの話し合いにとどまらずに、さらに各々の配偶者が絡むと揉め事が複雑になることが多いのは、経営者以外の相続問題と同様です。

尚、長女の相続分が一定割合以下の場合、法的には長男が長女の遺留分を侵害している状態となり、この場合に長女が長男に対して遺留分の侵害請求をすると、長男は請求された額を現金で支払わなければならなくなります

ですから、遺言には遺産分割の内容だけでなく、なぜそのように分割するのかという理由も記載しておくと、揉め事を回避するためには有効です。
遺言において、遺産分割の内容は法定遺言事項といい、法的な力があります。
これに対して、遺産分割を決めた理由は、付言事項と言って、法的な効力はありませんが、相続人に対するメッセージとしては重要で、これがあることで深刻な対立を回避できる場合もあります。

このように、社長の考えを確実に法定相続人に伝え、後継者、相続人のトラブルを回避する方法として、遺言を活用することが大切なのです。

尚、遺留分侵害請求を回避する方法は、ご相談事例に記載してありますので、そちらをご覧ください。

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◆社長に事業承継対策の話をしたいけれど、どのように話しをしたらいいのかわからない方におすすめです

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